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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)1134号 判決 1980年10月09日

原告 古小高義光

右訴訟代理人弁護士 河野宗夫

同復代理人弁護士 駒場豊

同代理人弁護士 服部成太

同 加藤義樹

同 大久保建紀

被告 カワノ建物株式会社

右代表者代表取締役 川野政三

右訴訟代理人弁護士 栗原勝

主文

一  被告は原告に対し金六五六〇万七八一四円とこれに対する昭和四八年二月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、被告から、左記のとおり金員を借り受け、右債務を担保するため、譲渡担保として、原告の所有にかかる別紙物件目録記載の各土地(以下「本件各土地」という。)の所有権をそれぞれ左記のとおり被告に譲渡した。

(一) 昭和四七年五月二一日

金額 三七一〇万円

弁済期 同年一一月二〇日

弁済期迄の利息 八九〇万円

担保物件 同目録(一)ないし(五)の土地

(以下「(一)の消費貸借」という。)

(二) 昭和四七年七月一八日

金額 二〇〇〇万円

弁済期 昭和四八年一月一八日

弁済期迄の利息 四八〇万円

担保物件 同目録(六)、(七)の土地

(以下「(二)の消費貸借」という。)

(三) 昭和四七年七月一八日

金額 二三〇〇万円

弁済期 昭和四八年一月一七日

弁済期迄の利息 五五二万円

担保物件 同目録(八)の土地

(以下「(三)の消費貸借」という。)

2  被告は、昭和四八年一月一九日同目録(一)ないし(五)の土地を訴外プレイロード株式会社(以下「訴外会社」という。)へ代金五四〇〇万円で、同年二月一日同目録(六)ないし(八)の土地を訴外森文男へ代金五二〇〇万円でそれぞれ売却した。

3  原告の右各借受金につき、それぞれの担保物件である本件土地の右売却時点における元利合計金を利息制限法に従って計算すると、(一)の消費貸借につき四〇八二万一六一円、(二)の消費貸借につき二一六三万五六一六円、(三)の消費貸借につき二四八九万四〇九円、総額八七三四万六一八六円となる。

4  本件各土地は譲渡担保に供されていたものであるから、被告は原告に対しそれぞれの売却時点における本件各土地の価額と各被担保債権額との差額を清算金として返還すべき義務がある。ところで本件譲渡担保は、当事者間に特段の約定のない以上いわゆる帰属清算型と解されるから、右清算にあたっての本件土地の価額は訴外会社らへの実際の売却価額のいかんにかかわらず、適正に評価された価額によるべきところ、右価額は合計一億五二九五万四〇〇〇円と認められる。したがって本件における清算金は右一億五二九五万四〇〇〇円から右売却時までの被担保債権額の合計額である八七三四万六一八六円を控除した六五六〇万七八一四円となる。

仮に本件譲渡担保がいわゆる処分清算型であるとしても、清算にあたっての本件各土地の価額は、帰属清算型の場合との権衡、不当に安価に売却される危険性等を考えると、現実の処分価額をそのまま基準とすべきではなく、相当な価額をもって基準とすべきである。そして相当な価額とは前記適正な評価額と同一の金額に帰するものと解すべきであるから、この場合においても本件清算金額は前記帰属清算型の場合と同額となる。

よって、原告は、被告に対し、清算剰余金として六五六〇万七八一四円及びこれに対する本件各土地をすべて売却処分した日の後である昭和四八年二月三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。但し(一)、(二)の各消費貸借契約を締結した日時はそれぞれ昭和四七年五月一九日、同年七月一七日である。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実は否認する。

4  同4の事実は否認する。本件譲渡担保はいわゆる処分清算型であり、また被告は本件各土地を合計金一億〇六〇〇万円で売却したが、これは当時における適正な取引価格であるから、本件において清算剰余金を生じる余地はない。

三  抗弁

原告と被告は、昭和四七年一二月二九日話合いのうえ、(一)、(二)の消費貸借の担保物件については昭和四八年一月一五日まで、(三)、(四)の消費貸借の担保物件については同月末日までにそれぞれ返済しないときは、被告は各担保の目的物件を第三者に売却することができ、かつ原告は被告又は被告から買受けた第三者に対し金員若しくは物件の返還請求権を有しないこと、すなわち既に設定してある譲渡担保権設定契約についてこれをいわゆる流担保の特約のある契約に変更する旨の和解契約が成立した。その結果被告の清算義務は消滅した。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1の事実のうち(一)、(二)の消費貸借につき契約を締結した日時の点を除いては当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば(一)の消費貸借については昭和四七年五月二一日、(二)の消費貸借については同年七月一八日にそれぞれ契約が締結されたことが認められる。

二  被告が本件土地を請求原因2のとおり売却したことは当事者間に争いがない。

被告において右売却以前に譲渡担保権の行使により本件土地の所有権を確定的に取得した旨の主張も立証もないから、被告は右売却により請求原因1により設定された譲渡担保権を実行したものと認められる。

三  ところで被告は抗弁として、本件譲渡担保契約は昭和四七年一二月二九日に当事者間でいわゆる流担保型とすることに合意したので清算義務がない旨主張するので、まずこの点について判断する。

成立に争いがない乙第五号証(相互契約書)中には「昭和四八年一月末日以後に付いては乙(原告)は物件の再売買権をそう失し、甲(被告)又は第三者名義人に物件、金員の一切の債権、債務を相互に申出せぬ事」との記載があり、被告代表者尋問の結果中には、右相互契約書の記載は、担保物件を処分した結果、債権額との間に過不足が生じても、原告、被告のいずれにおいても一切清算の請求をしない旨の合意が成立し、これを記載したものである趣旨の供述がある。

しかし、譲渡担保契約においては、担保権である以上、担保物件の価格が少額であるとか、担保物件価格が客観的に評価されて明確になっており、しかも被担保債権額との間に著しい差がないなどの特段の事情がない限り、担保権が実行されたときは、物件の正当に評価された価格と弁済されるべき債務との間に過不足を生じたときはこれを清算することを当然の前提として合意しているものと解するのが当事者の合理的意思に合するもので、契約の本旨に沿うものというべきである。そしてこの理は、前記特段の事由のない限り単に契約書上清算を不要とする趣旨の記載がなされたとしてもこれによって左右されるものではないと解すべきである。

そこで《証拠省略》によると、被告が本件土地を譲渡担保として原告に金員を貸付けるに当っては、現地に臨んで本件土地を検分したが、特にその価格を専門的知識を有する第三者によって評価を求めるなど厳格な評価をすることはせず、被告代表者の評価したところを基準とし、更にその四割程度の金員を貸付けることとしたこと、貸付に際しては、期限に返済ができないときは、原告において本件土地を売却して債務の返済に当てるべきことが話合われており、その後原告が約定の期日に返済ができないため期限の猶予を求めた際には、被告の代表者が原告に対し、被告が担保権の実行として本件土地を売却したときは改めて原告と被告が話合いのうえ清算金額を決する旨を告げたこと、その後原告は期限の猶予を得たものの結局返済することができず、再度被告に期限の猶予を求めた際被告の要求により前記相互契約書(乙第五号証)を作成したが、その際も特に本件土地の適正な価格を客観的に評価するなどのこともなく、従って支払われるべき債務の額と本件土地の適正な価格との比較検討も何らなされていないことの各事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

してみると、前記相互契約書(乙第五号証)の記載は弁済されるべき債務の額と本件土地の適当な価格との差が少額である場合に清算を不要とする程度の趣旨の合意であって、その差額が如何なる場合にも清算義務を負わないことを合意したものではないと解するのが相当である。そして、原告の弁済すべき債務額と本件土地の適正な価格との間に著しい差のあることは、後に判示するとおりである。従って被告の抗弁は理由がない。

四  以上のとおりであるから、被告は本件土地の譲渡担保権者として担保権を実行した結果、原告に対し清算義務を生ずるに至ったものというべきである。

そこで清算義務の内容について判断するに、特段の定めのない限り、原告が主張するとおり、担保権の実行により本件土地が確定的に被告の所有に帰したとき、適正価格により被告が所有権を取得したものとして清算義務を生じる(いわゆる帰属清算)ものと解すべきであるが、被告の抗弁について判示したとおり、本件譲渡担保契約においては、当事者間において、本件土地を処分して債務弁済に当てて清算すべきことを合意していたものと認められるから、被告が主張するとおり、被告において本件土地を処分した時に処分された価格をもって清算(いわゆる処分清算)すべきである。

従って清算の基準時点は、被告が本件土地を処分した時、すなわち(一)の消費貸借契約については昭和四八年一月一九日、(二)、(三)の各消費貸借契約については同年二月一日となり、右基準時点における各消費貸借契約に基づく元利合計金を、利息制限法に従って計算すると、別紙計算書1、2記載のとおり、それぞれ四〇八二万一六四円、二一六三万五六一六円、二四八八万九五八円(円未満切捨)となる。

次に、清算の対象となるべき物件の価格についてみるに、処分清算型譲渡担保においては、担保権者は担保物件の売却代金を被担保債権及び売却に要した費用(但し本件ではその主張立証はない。)に充当し、なお剰余のあるときは清算金として設定者に返還する義務があり、またこれをもって足りると解される。しかし右は担保権者が売却に当たってできる限り適正な価格によって売却するべく誠実に換価処分をなし、適正価格と著しく異ならない価格で売却された場合に限られるのであって、これを怠って不当に低の価格で売却された場合は現実に売却された価格をもって清算するのは相当でなく、売却時において、取引を前提として適正に評価された価格により売却されたものとして清算義務を決するのが相当である。

これを本件の場合についてみるに、被告が昭和四八年一月一九日、本件各土地のうち別紙物件目録(一)ないし(五)の土地を訴外会社に代金五四〇〇万円で、同年二月一日同目録(六)ないし(八)の土地を訴外森文男に代金五二〇〇万円でそれぞれ売却したことについては当事者間に争いがない。一方、右争いのない事実に、《証拠省略》を総合すると、同目録(一)(二)(六)(七)の土地の時価は、右(一)(二)の土地については昭和四八年一月一九日時点、(六)(七)の土地については同年二月一日時点で合計一億〇八九三万六〇〇〇円(一平方メートル当たり三九四五円、なお実測面積は合計二万七六一一・九二平方メートル)、同目録(三)ないし(五)の土地の時価は同年一月一九日時点で合計二三五〇万八〇〇〇円(一平方メートル当たり三六四〇円、なお実測面積は合計六四五八・一九平方メートル)、同目録(八)の土地の時価は同年二月二日時点で二〇五一万円(一平方メートル当たり一七三円)であったこと、右の各時価は近隣の類似地域における他の売買事例に基づき算出されたものであり、実際の売買にあたっての取引価格を示すものと考えられること、他方原告及び被告は昭和四七年一二月二九日に(一)の消費貸借の弁済期を昭和四八年一月一五日、(二)及び(三)の消費貸借の弁済期を同月末日まで延長する旨合意したが、被告は右延長に係る弁済期の経過後直ちに本件各土地を訴外会社及び訴外森文男に売却していること、なお訴外森は訴外会社の代表者であり、かつ被告会社の代表者の義弟にあたるが、同訴外人らは本件各土地を買い受けた後特に利用することなく昭和五四年一〇月に再び被告代表者個人に対し売り渡したものとして所有権移転登記をしていることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、被告と訴外会社及び訴外森との関係、本件各土地の売却時期等からみて、被告の訴外会社らに対する本件各土地の売買価額が適正な取引価額であったと認めることには疑問があり、また《証拠省略》による本件各土地付近の土地売買の事例についても、その土地の位置、形状、売買に至った事情等が明らかではないため右売買価額をもって本件各土地の適正な売買価額を推し量ることは難しく、その他本件においては鑑定による価額以外本件各土地の適正な処分価額を窺わせるに足りる事情が見当らないところであるから、右各土地の適正な処分価額については右鑑定による価額、すなわち同目録(一)(二)(六)(七)の土地については合計一億八九三万六〇〇〇円、同(三)ないし(五)の土地については合計二三五〇万八〇〇〇円、同(八)の土地については二〇五一万円であったというべきである。

そうであれば、被告は原告に対し、本件譲渡担保に係る本件各土地をすべて処分したことに基づく清算金として、本件各土地の適正な処分価額の合計額である一億五二九五万四〇〇〇円から、前記四における本件借入金の元利合計金八七三三万六七三八円を控除した六五六一万七二六二円の返還義務があるものというべきである。

五  以上のとおりであるから、右清算金のうち六五六〇万七八一四円の支払を求める原告の本訴請求はすべて理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川上正俊 裁判官 持本健司 裁判官田邊直樹は職務代行を解かれたので署名押印することができない。裁判長裁判官 川上正俊)

<以下省略>

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